ドイツのU8/U9世代はなぜ5対5をやるのか【理論編】

前回のコラムでは戦術とはそもそもなんだろうか、そして戦術を伝えるとはどういうことだろうか、という点について考察してみた。今回は8、9歳といった小さな子どもたちに対してどのように取り組むべきなのかについて取り上げたい。

どれだけ戦術的な言葉を使わずに伝えられるか

まず一番に強調しておきたいのは、小さな子どもへの大切なアプローチとして「戦術的な言葉」をできるだけ使わずに、「戦術的な動き」を身につけてもらえる環境を準備することだ。これは言葉の意味やその言葉が表す動きを、覚えなくていいということではない。言葉はお互いの理解をわかりやすくするために必要なものだ。経験ある選手ならば、例えば「ワンツーパス」という言葉から、パスを出した選手がすぐに動きなおしてパスをもらおうとする動きのイメージを持つことができる。お互いが理解している言葉を使うことで、ビジョンを共有し合えるというわけだ。

ただそれを先に言葉ありきで、子どもたちに当てはめさせるのはどうだろう。つまり「ワンツーパスとはこういうものだよ。こういう動きをしなさい」、といってコピーさせるのではなく、そうした動きが出てくるようなトレーニングや試合環境を作ってあげることが先にあるべきだと思うのだ。

なぜこういう指摘をするのかというと、戦術的な言葉に対して間違った認識を持つ子供たちがたくさん出てしまうからだ。例えば「ワンツーパス=パスをリターンする」という解釈になってしまうことがある。なぜリターンパスをしなければならないのだろうか? 明らかに相手選手がそこにいるのに、そこへパスを返す必要はあるだろうか?

サッカーを始めたばかりのころは、そもそも「パスを出す」という考えがあまりない。なんでわざわざボールを手放さなきゃいけないかわかっていないからだ。「ボールに触りたい」「ゴールを決めたい」。子どもたちならみんなそう思っている。でもそれだけでは「サッカー」にはならない。それはサッカーがチームスポーツだからだ。仲間と協力して目的を達成することが大きな喜びとなり、仲間とともにプレーをすることを理解することで、一人でプレーしている以上にサッカーに関われることを実感できるようになるのだ。

協力して攻めて守る。その中でパスという選択肢を知る。そしてパスをもらうという動きを考える。最初は味方にパスを出したらそこで立ち止まってしまうのが普通だ。連続的に異なる動きをしていく習慣がまだないからだ。でも慣れてくるとパスのあとに、前へと走りだすようになる。ゴールに近づいた位置でパスをもらえれば、シュートを打てるチャンスが出てくるからだ。

その動きを強調させるために、例えばトレーニングでシュートゾーンというエリアをゴール前に作って、シュートはそのエリア内からしか打てないというルールを加えたら、みんな自然とそこへ走り出す。気がつくとおのずと「ワンツーパス」に近い形が出てくる。キレイな形でなくてもいい。そこへの意識がみられたら、すでに素晴らしいことなのだ。「ワンツーパス」という言葉を使わなくても、そのための動きを教え込まなくても、しっかりと戦術的な動きはみられるようになる。そうした時に「こうした動きをワンツーパスというんだよ。相手より早く前にいけたらシュートを打てるところにいけるよね。でも相手がついてくることもある。そうした時でも無理してパスを出す方がいいのかな?」と伝えてあげればいい。育成は何より我慢強く向き合うことが欠かせない。

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中野吉之伴

中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/41歳。ドイツサッカー協会公認A級ライセンス保持(UEFA-Aレベル)。01年渡独後地域に密着した様々な町クラブでU8からU19チームで監督を歴任。SCフライブルクU15チームで研修 を積み、現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督と、息子がプレーするSVホッホドルフでU9コーチを務めている。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。ナツメ社より出版の「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」は18年サッカー本大賞優秀賞に選出。WEBマガジン「中野吉之伴『子どもと育つ』」